コラム

建設業の事業承継をスムーズに進めるには|栃木県の経営者が押さえる名義変更(許可の承継)のポイント

事業承継や会社組織の再編は、建設業において珍しいことではありません。しかし、「会社の名義を変えたい」「個人事業から法人に切り替えたい」といった場面で、建設業許可の名義をどう扱うかを正しく理解していないと、思わぬトラブルにつながります。

栃木県では「建設業許可の承継制度」が整備されており、事前に認可を受けることで許可を引き継ぐことが可能です。この記事では、栃木県の最新手引きをもとに、建設業許可の名義変更(承継)をスムーズに進めるための実務ポイントをわかりやすく解説します。


1.栃木県における「許可の承継制度」とは?

従来は、会社の合併・分割・事業譲渡・法人成りなどを行った場合、新しい許可を取り直すしかありませんでした。そのため、許可が出るまで“無許可期間”が発生し、契約や工事に支障が出ることも。

そうした問題を解消するため、令和2年10月の法改正で「許可の承継制度」が創設されました。事前に認可を受けることで、許可を引き継いだまま事業承継ができます。

承継すると、許可だけでなく以下も引き継ぎます。

  • 被承継人の監督処分

  • 経営事項審査の結果

「良い点も悪い点も丸ごと引き継ぐ」という仕組みになっています。


2.承継制度の4つの区分(栃木県の手引より)

栃木県の制度は以下の4区分に分かれています。

● ① 事業譲渡(法人成りも含む)

  • 個人 → 法人

  • 法人 → 個人

  • 法人 → 法人
    建設業の事業の“全部”を譲渡する場合。

● ② 合併(新設・吸収)

複数法人の合併で、建設業の許可を持つ会社が消滅する場合。

● ③ 会社分割(新設分割・吸収分割)

建設業部門を引き継ぐ新会社をつくる、または分割する場合。

● ④ 個人事業の相続

個人事業主が死亡した後に相続人が承継する場合。
※相続のみ“死亡後30日以内”に申請すれば遡及的に許可を継続できます。


3.承継後の許可期間・許可番号はどうなる?

● 許可の有効期間

  • 相続以外の承継:承継日の翌日から5年間(承継日当日も有効)

  • 相続:被相続人の死亡日から5年間

● 許可番号

  • 基本は 被承継人(元会社)の許可番号を継続使用

  • 例外として、承継元・承継先の双方が栃木県知事許可の場合、どちらかを選択可能


4.認可申請できるのはどのケース?(栃木県の要件)

次の条件を満たしていないと栃木県に申請できません。

  • 被承継人・承継人のすべてが栃木県知事許可業者
    または

  • 営業所が栃木県内のみにある場合

※どちらか一方でも「大臣許可」の場合は、地方整備局(国土交通省)に申請。


5.承継制度を利用するための“必須要件”

承継を認可してもらうには、以下の条件をすべて満たす必要があります。

(1)事実発生前に申請する(相続以外)

合併・分割・事業譲渡の前に認可が必要事後申請は一切不可。

(2)建設業の“全部”を承継すること

一部だけ承継は不可。不要な業種がある場合は 事前に廃業届 が必要。

(3)区分が異なる許可はそのまま承継できない

例:被承継人=一般、と承継人=特定など
→どちらかを事前に廃業する必要あり。

(4)承継後すべての業種で承継人が許可要件を満たすこと

  • 経営業務管理責任者

  • 専任技術者(営業所技術者等)

  • 財産的基礎

  • 誠実性
    など、通常の許可要件をすべて満たすこと。

さらに、被承継人も承継日まで要件を満たし続けていることが必要。


6.実務で特に注意すべきポイント(現場で多いトラブル)

● ① 経管・専技の“常勤性”の確保

法人成りなどで同じ人が両方に在籍する場合
承継日前の二重勤務扱いになるとNG
→承継先の許可が取消になる恐れあり

社会保険・住民税の切替日は必ず「承継日と同日」に。

● ② 必要書類の“後日提出分”の期限管理

承継後に提出できる書類もあるが、期限を過ぎると認可取消の可能性あり。
(例:常勤性確認書類、健康保険加入状況、営業の沿革など)

● ③ 合併・事業譲渡契約書の記載内容

  • 承継予定日(または認可日付)

  • 取得価格

  • 譲渡資産

  • 従業員の取り扱い
    などを必ず明記。

不備があると補正が長引き、承継日に間に合わないことも。

● ④ 事前相談は“2か月以上前”が推奨

栃木県監理課では 承継予定日の2か月以上前の事前相談 を推奨。
当日持参での相談は不可


7.名義変更(承継手続き)をスムーズに進めるために

栃木県で建設業の名義変更(承継)を進めるなら、最低限次を押さえておくとスムーズです。

  • 申請は「事前」にしかできない

  • 事業の全部を承継する必要がある

  • 必要に応じて廃業届を先に出す

  • 常勤性の確保のため、承継日より前の社会保険切替は厳禁

  • 契約書(合併・分割・譲渡)は記載漏れがないように

  • 後日提出書類の期限は絶対に守る

  • 承継予定日の2〜3か月前には行政と相談を開始する

これらを押さえるだけで、建設業許可の承継トラブルは大幅に減らせます。


まとめ

建設業の事業承継は、単なる“名義の変更”ではなく、許可要件の確認・承継契約書の整備・事前相談のタイミング など、専門的な要素が多く、慎重に進める必要があります。

特に栃木県では、承継制度の利用条件が明確に定められており、手順を誤ると承継が認められず、無許可期間が発生する可能性もあります。

制度を正確に理解し、早めに準備することが、事業承継をスムーズに進めるための第一歩です。

参考:栃木県建設業許可申請の手引令和7年(2025)年度版


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