コラム

建設業のM&Aで必ず確認すべき許可の論点 ー引き継げるもの・引き継げないものー

建設業のM&Aで必ず確認すべき許可の論点
― 引き継げるもの・引き継げないもの ―

建設業界でも近年、事業承継の選択肢として M&A(合併・買収) を検討するケースが増えています。後継者不足、従業員や取引先の維持、事業の整理と継続。こうした背景から、第三者への承継を現実的に考える建設業者も少なくありません。

ただし、建設業のM&Aでは、建設業許可の扱いを正しく理解していないと、事業そのものが止まるリスクがあります。

この記事では、建設業のM&Aにおいて必ず確認しておきたい建設業許可の論点を、制度と実務の両面から整理します。


建設業のM&Aは「許可ごと買える」わけではない

まず大前提として、建設業許可は自由に譲渡できる権利ではありません。M&Aによって会社や事業を引き継ぐ場合でも、
・何がそのまま引き継がれるのか
・何を改めて整える必要があるのか
を切り分けて考える必要があります。
ここを曖昧にしたまま話を進めると、「買収は成立したのに、建設業許可が使えない」という事態が起こり得ます。


M&Aの形態によって、許可の扱いは異なる

建設業のM&Aでは、どの形態で承継するのかによって、建設業許可の手続きや考え方が大きく異なります。


株式譲渡によるM&A(法人格が変わらない場合)

株式譲渡により、法人そのものが存続する形のM&Aでは、会社の中身(株主)は変わっても、法人格は変わりません。この場合、
・建設業許可は原則として存続
・許可番号も原則そのまま
という扱いになります。

ただしこれは、許可要件を引き続き満たしていることが前提です。
・経営業務の管理責任者
・営業所技術者等(専任技術者)
・常勤性・実態
などに変更があれば、変更届の提出や要件の再確認が必要になります。
※このケースでは、令和2年改正の「承継制度」を使う場面には通常該当しません。


合併・会社分割・事業譲渡によるM&A

一方で、
・合併(新設・吸収)
・会社分割(新設分割・吸収分割)
・建設業の事業譲渡
などにより、事業主体そのものが変わる場合は、従来であれば許可を取り直す必要があり、無許可期間が生じるリスクがありました。この問題を解消するため、令和2年10月の法改正で創設されたのが「建設業許可の承継制度」です。


建設業許可の承継制度(令和2年改正)の位置づけ

承継制度を利用すると、事前に認可を受けることで、許可を引き継いだままM&Aを行うことが可能になります。ただし、制度の利用には厳格な条件があります。
・相続以外は「事実発生前」の申請が必須
・建設業の「全部」を承継すること
・承継後、すべての業種で承継人が許可要件を満たすこと
・被承継人も承継日まで要件を満たし続けていること

また、承継すると、
・被承継人の監督処分
・経営事項審査の結果
も含めて引き継ぐことになります。良い点も、悪い点も含めて承継する制度である点は重要です。


引き継げない・注意が必要なポイント

個人事業の許可は原則引き継げない

個人事業主が持っている建設業許可は、その人個人に帰属する許可です。

そのため、個人事業を第三者が引き継ぐ、事業のみを売却するといった場合、許可をそのまま引き継ぐことはできません。この場合は、新たに法人や個人として建設業許可を取得し直す必要があります。


許可要件を担う「人」は自動では引き継がれない

M&Aの場面で特に重要なのが、許可要件を担っている人材の扱いです。
・経営業務の管理責任者が退任する
・営業所技術者等(専任技術者)が退職する
・在籍実態や常勤性が変わる
こうした場合、許可要件が一気に崩れる可能性があります。

M&Aでは、
・人材も含めて承継できるのか
・できない場合の代替体制はあるのか
を、必ず事前に確認する必要があります。


M&Aで実務上よくある見落とし

実務では、次のような点が後回しにされがちです。
・許可要件を「誰が担っているか」の整理不足
・代表者・役員変更に伴う届出漏れ
・営業所の統廃合による体制変更
・承継日前後の常勤性・社会保険切替日のズレ
これらは、M&A成立後に問題が表面化しやすく、事後対応が難しいのが特徴です。


許可の視点から見た、建設業M&Aの現実

建設業のM&Aでは、
・事業価値
・取引先
・従業員
に加えて、「建設業許可を維持できる体制かどうか」が重要な判断材料になります。
許可の視点を入れずに進めると、想定していた工事が受けられない、取引先からの信用が揺らぐ。といった影響が出ることもあります。


まとめ|建設業のM&Aは「許可の棚卸し」から始める

・建設業許可は自由に譲渡できるものではない
・株式譲渡と、合併・分割・事業譲渡では扱いが異なる
・承継制度は「事前認可」が前提の制度
・人材と体制の整理
が、許可維持の最大のポイント
建設業のM&Aは、単なる会社売買ではなく、建設業許可制度と切り離せない取引です。「引き継げるもの」と「引き継げないもの」を正しく整理したうえで進めることが、事業を止めないための最も重要なポイントになります。


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