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コラム
4.32025
感情と手続きのはざまで揺れるとき ~相続人の“気持ち”に寄り添うサポートとは~

「急なことで、まだ気持ちの整理がついていません。でも手続きは、進めなきゃいけないんですよね……」
先日、そんな言葉とともに、ひとりの女性がご相談にいらっしゃいました。ご主人を亡くされたばかりで、相続手続きが必要になったとのことでした。とても落ち着いて話されてはいましたが、時折言葉を詰まらせながら、「何から始めたらいいのか分からない」と、小さな声で呟かれてたのが印象的でした。
行政書士として、私は相続手続きをスムーズに進めるお手伝いをしています。でも、それだけでは足りないと感じる瞬間がたくさんあります。大切な人を失った直後に訪れる“手続きの山”。まだ心が追いついていないうちに、戸籍を集めたり、銀行に連絡をしたり、書類を整えたり―そんな現実が、いきなり目の前に現れるのです。
とくに、ご夫婦にお子さんがいなかった場合、相続人は配偶者と「夫の兄弟姉妹」になることがよくあります。「まさか、疎遠な義理の兄弟と遺産のことで話し合うことになるなんて……」と、驚きと困惑を口にされる方も少なくありません。
その女性も、まさにそのケースでした。
ご主人の兄弟とは、年に1、2度やりとりする程度だったそうです。それでも法律上は、兄弟姉妹にも相続権があるため、遺産分割協議を進める必要があります。ただでさえ心が落ち着かない時期に、あまり関わりのない人たちと財産の話をするのは、どれほど大変なことか…そのしんどさは、想像に難くありません。
「相続人の皆さんに事情を説明して、協議書に署名をもらうんですよね…」と不安そうに尋ねる彼女に、私はこう伝えました。
「無理のないペースで、一つずつ整理していきましょう。必要な準備が進めやすくなるように、伝え方も含めて一緒に考えていきましょう。」
私たち行政書士は、相続の“手続き”を進める専門家ですが、同時に、“気持ち”が置き去りにならないようにサポートする役割も担っていると思っています。その後、何度かお電話や面談を重ねながら、相続人一人ひとりに対して丁寧な案内を行い、無事に遺産分割協議書を整えることができました。最後に彼女が言ってくださった、「ここまで来られて、少しほっとしました。本当に助けられました。」という言葉は、胸に沁みました。手続きのサポートという枠を超えて、人の役に立てたと感じられる瞬間は、私にとって何よりの励みです。
相続の手続きは、「いつかやろう」では済まされない、期限や順序があるものです。けれど、心が追いつかないときもある。そしてその“揺れ”の中で、誰かにそっと寄り添ってもらえるだけで、随分救われることもあるのではないでしょうか?
私は、書類の準備や提出だけでなく、「その方がどんな気持ちでその場にいるのか」を想像しながら、一緒に歩んでいきたいと考えています。感情と手続きのはざまで揺れるとき。そんなときこそ、安心して頼ってもらえる存在になれるよう、日々、丁寧に向き合っています。