コラム

遺言書は“思いやり”の表現? ~家族の絆を守る法的ツール~

「遺言書って、必要な人だけが作るものじゃないんですか?」
そんなふうに思われる方は、まだまだ多いかもしれません。でも実は、遺言書は“お金や財産”のためというよりも、“大切な人との関係”を守るためのもの。私はそう実感しています。

行政書士として、日々いろいろなご相談を受ける中で感じるのは、遺言書はただの手続きや書類ではなく、家族へのメッセージであり、人生の最終章に込められた「やさしさの形」だということです。

家族の関係性を守る“言葉”

たとえば、「自分が亡くなった後、子どもたちがもめたりしないように」と話される方は多くいらっしゃいます。なかには、「家を継いでくれる長男に少し多めに…」「遠方に住んでいる娘にも感謝の気持ちは伝えたい」と、それぞれのご家族への思いを丁寧に語ってくださる方も。

こうした想いを形にするのが、遺言書なのです。遺言書があれば、相続分を明確に示すことができ、余計なトラブルや誤解を防ぐことができます。それは、“家族の関係を壊さないための思いやり”でもあるのです。

感情のすれ違いは、予防できる

実際、相続の場面では「相続財産」以上に「気持ち」のすれ違いがトラブルの原因になることがよくあります。「自分は大切にされなかった」「兄弟のほうが優遇された」―そう感じてしまうことが、争いの火種になってしまうのです。

でも、あらかじめ遺言書に「なぜそうしたのか」「どんな思いを持っているのか」を残しておけば、たとえ財産の分け方が均等でなくても、納得しやすくなることがあります。

あるご相談者の例では、「長男に多く残すのは、長年同居して世話になったから」という気持ちを、付言事項という形で残しました。結果的に、他の兄弟たちもその想いを理解し、「お父さんらしいね」と納得されたのです。

気持ちを伝える“法のかたち”

遺言書の作成は、もちろん法律に沿って進めていく必要がありますが、その背景にある“気持ち”を汲み取って丁寧に整えることが、私たち行政書士の役割だと思っています。

「財産なんてたいしてないから」と遠慮される方もいらっしゃいますが、遺言書は“金額”ではなく、“気持ち”を残すもの。相続する側にとっても、「自分のことを考えてくれていた」という事実は、何よりの安心になります。

争族にならないために、今できること

「うちは家族仲がいいから大丈夫」そう思っていても、相続のタイミングには立場の違いや考え方の違いが浮き彫りになります。その時に、遺言書があるかどうかで、話し合いの雰囲気が大きく変わることもあるのです。

また、子どもがいないご夫婦や、再婚家庭、内縁関係にある方など、「法定相続だけでは想いが届かない」ケースも増えています。そういったときこそ、遺言書が本当の意味で“家族の絆”を守るツールになるのです。

私が大切にしていること

私は、行政書士として遺言書作成のサポートをしていますが、書面を整えることだけでなく、その背景にある人生や想いを一緒にくみ取っていくことが、私の務めだと感じています。

遺言書は、人生の最後に家族へ贈る、言葉にできなかった「ありがとう」や「これからも幸せでいてね」というメッセージ。誰かの心をあたため、絆をつなぐ小さな橋のような存在です。

これからもこのコラムを通して、そうした“気持ちをつなぐ法のかたち”を、わかりやすく、丁寧にお伝えしていけたらと思っています。

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