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コラム
11.182025
「遺言と異なる分割」を希望する場合の実務上の留意点

遺言書がある場合でも、相続人全員が合意していれば、遺言内容と異なる方法で遺産を分けることができます。ただし、実務ではいくつかの重要な注意点があり、準備を誤ると思わぬトラブルにつながることもあります。
この記事では、遺言と異なる遺産分割を希望する場合に、事前に確認しておくべきポイント整理 しています。
目次
1.遺言と異なる遺産分割は可能なのか?
民法では、遺言よりも「相続人全員の合意」が優先されます。このため、相続人全員が納得していれば、遺言とは違う内容で遺産を分けても問題はありません。
注意すべき点は以下の通りです。
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相続人全員の同意が絶対条件
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一人でも反対すれば成立しない
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相続人が一人でも欠ければ協議自体が無効となる
まずは「誰が相続人か」を正確に把握することが基本になります。
2.最も重要なのは“相続人を正確に確定すること”
遺産分割協議は、相続人全員の参加がなければ法的に成立しません。そのため、次の戸籍類を収集し、相続関係を確定させる必要があります。
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被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍
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相続人全員の現在戸籍
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養子縁組・認知の有無
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非嫡出子・代襲相続の可能性
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過去の婚姻歴による子の有無
家族の認識と戸籍の記録が異なるケースもあるため、戸籍の収集・確認は慎重に行う必要があります。
3.遺言と異なる分割を行う理由の整理も大切
遺言の内容と異なる遺産分割を希望する背景には、さまざまな事情があります。
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財産内容が遺言作成時と変わっている
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相続人の生活状況が大きく変わった
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生前贈与など既に受けたものとの調整
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遺言どおりよりも合理的に分けられる事情がある
どのような事情があるのかを整理しておくと、相続人間での話し合いが進めやすくなります。
4.遺言執行者がいる場合の注意点
遺言書に「遺言執行者」が指定されている場合、遺言と異なる分割を進めるには、執行者の協力が必要となる場面があります。
よくある場面としては次の通りです。
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遺産分割協議書の確認や署名押印
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金融機関から求められる同意書類への記載
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遺言内容と異なる取扱いについての意思確認
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財産の名義変更に関する調整
遺言執行者には遺言を実現するための一定の権限があるため、手続き上、執行者の関与が求められることがあります。実務では、「遺言執行者が指定されていたことを後から知った」というケースも多く、遺言書を確認する際は、執行者の有無を最初にチェックすることが重要です。
5.不動産が関係する場合の特有の留意点
不動産を含む相続では、以下のような点に注意が必要です。
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固定資産評価額の確認
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不動産ごとの価値の偏りがないか
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名義変更(相続登記)の手続き
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売却予定がある場合の取り扱い(売却方法・代金分配)
不動産登記は司法書士が行う手続きとなるため、遺産分割協議書の内容が登記要件に合うよう注意する必要があります。
6.預貯金・金融資産で起きやすい実務ポイント
預貯金・投資商品などは、金融機関により必要書類や手続きが異なります。
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遺産分割協議書の書式の違い
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戸籍の提出範囲
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代表相続人の取扱いの有無
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遺言書がある場合の追加確認
遺言と異なる分割を行う場合、金融機関から追加書類を求められることもあります。
7.税務
遺言と異なる分割をしても、相続税の計算方法は基本的に変わりません。
ただし、
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遺留分の問題
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納税資金の準備
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相続税申告の期限管理
といった点には注意が必要です。税務判断が必要な場合は税理士への相談が適切です。
8.相続人間で意見が割れている場合は専門家の範囲に
遺言と異なる分割は「相続人全員の合意」が条件です。もし、相続人間で意見が分かれている場合は、その調整や交渉は弁護士が扱う領域となります。
まとめ
遺言と異なる遺産分割は法律上可能ですが、その一方で、次のような点を丁寧に確認しなければ、手続きが止まってしまうことがあります。
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相続人を正確に確定する(戸籍の精査)
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遺言執行者の有無と役割の把握
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不動産や金融資産それぞれの取扱いの違い
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税務・登記など専門性が求められる場面の見極め
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相続人全員の合意が必須であること
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意見が分かれている場合は弁護士の領域になること
相続は「法律の仕組み」だけでなく、家族の状況、財産の種類、過去の経緯などが複雑に絡み合います。そのため、遺言書がある場合でも、遺産分割協議を行う場合でも、場面ごとに関わる専門家が変わることも珍しくありません。不動産登記、税務、戸籍確認、金融機関対応、遺言執行者との調整など、どの部分が誰の担当になるのかは、状況により異なります。
遺言の趣旨を尊重しつつ、ご家族にとって最も納得のいく形を探るためには、事前の準備と、冷静な情報整理、そして状況に応じたアドバイスを受けることが大きな助けになるでしょう。













